Current / Conductance-based シナプス#

化学シナプスの2つの記述形式#

具体的なシナプスのモデルの前に, この節では化学シナプスにおけるシナプス入力(synaptic drive)の2つの形式, Current-based シナプスConductance-based シナプスについて説明する。簡単に言うと、Current-based シナプスは入力電流が変化するというモデルで, Conductance-based シナプスはイオンチャネルのコンダクタンス (電気抵抗の逆数, 電流の流れやすさ)が変化するというモデルである (Cavallari et al., 2014)。

以下では例として, 次のLIFニューロンの方程式におけるシナプス入力を考える。

τmdVm(t)dt=(Vm(t)Vrest)+RmIsyn(t)

とする。ただし, τmは膜電位の時定数, Vm(t)は膜電位, Vrestは静止膜電位, Rmは膜抵抗である。ここで、シナプス入力の電流Isyn(t)12つのモデルにおいて異なる部分となる。

Current-based シナプス#

Current-based シナプスは単純に入力電流が変化するというモデルで, 簡略化したい場合によく用いられる。シナプス入力Isyn(t)はシナプス効率(synaptic efficacy)2Jsyn (単位はpA)とし , シナプスの動態(synaptic kinetics)をssyn(t)とすると, 次式のようになる。ただし, シナプスの動態とは, 前細胞に注目すれば神経伝達物質の放出量, 後細胞に注目すれば神経伝達物質の結合量やイオンチャネルの開口率を表す。

Isyn(t)=Jsynssyn(t)

ただし, ssyn(t)は, 例えば次節で紹介するα関数を用いる場合,

ssyn(t)=tτsexp(1tτs)

のようになる。

Conductance-based シナプス#

Conductance-based シナプスはイオンチャネルのコンダクタンスが変化するというモデルである。関連して、例えば Hodgkin-Huxley モデルはConductance-based モデルの1つである。Current-basedよりもConductance-based の方が生理学的に妥当である。例えば抑制性シナプスは膜電位が平衡電位と比べて脱分極側にあるか, 過分極側にあるかで抑制的に働くか興奮的に働くかが逆転する。これはCurrent-based シナプスでは再現できない。

Conductance-based モデルにおけるシナプス入力はIsyn(t)は次のようになる。

Isyn(t)=gsynssyn(t) (VsynVm(t))

ただし, gsyn (単位はnS)はシナプスの最大コンダクタンス3, Vsyn (単位はmV)はシナプスの平衡電位を表す。これらもJsynと同じく, シナプスにおける受容体の種類によって決まる定数である。

注意しなければならないことは, ssyn(t)0としたとき, Current-based モデルにおけるJsynは正の値(興奮性)と負の値(抑制性)を取るが, gsynは正の値のみである、ということである 4. Conductance-basedモデルで興奮性と抑制性を決定しているのは, 平衡電位Vsynである。興奮性シナプスの平衡電位は高く, 抑制性シナプスの平衡電位は低いため, 膜電位を引いた符号はそれぞれ正と負になる。


1

シナプス(synapse)入力であることを明らかにするためにsynと添え字をつけている。

2

シナプス強度(Synaptic strength)とは違い, 受容体の種類(GABA受容体やAMPA受容体, およびそのサブタイプなど)によって決まる。

3

gsynがシナプスの最大コンダクタンスとなるのは ssynの最大値を1に正規化する場合である。正規化は必須ではないので, 単なる係数と思うのがよい。

4

これはコンダクタンスが電気抵抗の逆数であり, 基本的に抵抗は正の値しか取らないことからも分かる。なお電子回路においては負性抵抗という, 素子の抵抗値が見かけ上, 負の値を取る場合もある。